左手、校舎。右手、プール。頭上、空。足下、地面。 上下左右、見慣れたいつもの風景だ。
放課後になっても後ろめたい気持ちが抜けない。
かつて歴史的な戦いから人々を守った砦があった。
ハンドルをひねると、何ごともなかったかのようにエンジンが掛かった。
汐生町を一望できる小高い丘の上に水上邸はある。
「私が中学生に?」 突然の申し出に、ユークは目を丸くした。数ヶ月前のことだ。
「つまり、好きってことなんです!」
一日の授業も終わり、教科書を鞄にしまいながら、気になっていることを聞いてみた。
無線機のような衛星電話に着信が入り、ユークは電話に出た。
同時刻、ユークの衛星電話も一通のメッセージを受信した。
「それで、遅刻してきたのは貴方ってわけ」 ユークの冷たい声が響く。
「なるほど……ユークの故障を治すために、お二人は、ここで情報収集をしていたわけですね」
からだ、とユークは思った。 わたしのからだ。
ちょっと待ってろ、とネムルに言いおいて、渚はアクアバギーに飛び乗った。片膝にユークを乗せるとエンジンをかける。
ネムルがリリーと攻防戦を交える最中、さりゅは海斗からユークの身体の状態を聞いた。
ネムルさん、とユークは思う。 すると、作業台の上に開かれたパソコンに「ネムルさん」と文字が表示された。
ユークはぷりぷり怒りながら通学路を歩く。先ほど、海斗から事情を聞いたばかりだ。
さりゅは辺りを見回して、思わずため息をついた。卒業して三年も経っていないのに、懐かしい感情がこみ上げてくる。
着信音が鳴り響く。ポケットをまさぐり電話を取り出す。反応がない。鳴っているのは友人のものだ。
「何も喋らなくて良い。酸素を無駄遣いするな」 ネムルは言った。発した声が震えないように注意しながら。
陸太と海斗が屋敷に到着すると、渚が庭先を掃除していた。
そっぽを向いた陸太の周りを、さりゅがうろつき回っている。何かを聞き出そうとしているようだ。