放課後になっても後ろめたい気持ちが抜けない。
かつて歴史的な戦いから人々を守った砦があった。
ハンドルをひねると、何ごともなかったかのようにエンジンが掛かった。
汐生町を一望できる小高い丘の上に水上邸はある。
「それで、遅刻してきたのは貴方ってわけ」 ユークの冷たい声が響く。
人声が振動となってぴりぴりと身体に響く。うるさい、うるさい、うるさーい! と声に出して叫びたい。
「なるほど……ユークの故障を治すために、お二人は、ここで情報収集をしていたわけですね」
からだ、とユークは思った。 わたしのからだ。
ちょっと待ってろ、とネムルに言いおいて、渚はアクアバギーに飛び乗った。片膝にユークを乗せるとエンジンをかける。
「タイミング、悪すぎだろ……オレ」 なすすべもなくさりゅの背中を見送りながら、陸太はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。
「渚さん」と海斗は声を掛ける。数秒遅れた反応で、渚は顔を上げる。深い考え事をしていたようだ。
さりゅは辺りをきょろきょろ見回す。朝の教室は忙しない活気にあふれている。自分に目を向ける人はいない。
ユークはぷりぷり怒りながら通学路を歩く。先ほど、海斗から事情を聞いたばかりだ。
さりゅは辺りを見回して、思わずため息をついた。卒業して三年も経っていないのに、懐かしい感情がこみ上げてくる。
「何も喋らなくて良い。酸素を無駄遣いするな」 ネムルは言った。発した声が震えないように注意しながら。
電子の羅針盤が示す東――汐生町の方向へ歩き続けること三十分。木々の奥に光が見えた。人工の明かりだ。
陸太と海斗が屋敷に到着すると、渚が庭先を掃除していた。
「サユリさん、貴方と同じ時代に生まれて良かった。言葉を交わすだけで幸せだった……それなのに、人間とは欲深いものです。