嫌な予感がした。
彼はすぐさま電源ボタンを押すと、神妙な面持ちで画面が立ち上がるのを待った。

左手、校舎。右手、プール。頭上、空。足下、地面。
上下左右、見慣れたいつもの風景だ。

放課後になっても後ろめたい気持ちが抜けない。

かつて歴史的な戦いから人々を守った砦があった。

ハンドルをひねると、何ごともなかったかのようにエンジンが掛かった。

汐生町を一望できる小高い丘の上に水上邸はある。

「私が中学生に？」
突然の申し出に、ユークは目を丸くした。数ヶ月前のことだ。

彼はその作業を「操作」と呼ぶ。
「操作」は標的の電子操作の妨害や、権限の乗っ取り、システムへの侵入や破壊に使われる。

「つまり、好きってことなんです！」

「珍しいな。お前から呼び出しがあるなんて」
渚は辺りを伺う。

「ちょっと豪、独り占めしないで！　アタシにも見せなさいよ！」

一日の授業も終わり、教科書を鞄にしまいながら、気になっていることを聞いてみた。

「サユリ、準備は良いデスカ？」

それはまるで迷路のようだ。原因を探ろうとすればパスワードロックに阻まれ、パスワードロックを解除するための方法に別のロックが掛かっている

ミルクティー入りのカップを置くと、ちょうど口をつけた部分にピンク色のルージュがついた。

「うわぁっ！」
リリーの弾丸が目の中に入ってくる錯覚を起こし、南雲は思わず仰け反った。

力いっぱい背中を押される。前のめりに倒れ込み、膝を擦りむく。ひりつく熱、冷たい痛み。掌に食い込んだ砂利を払うと、血が滲んでいた。

無線機のような衛星電話に着信が入り、ユークは電話に出た。

その晩、南雲のパソコンがハッキングされた。

同時刻、ユークの衛星電話も一通のメッセージを受信した。

「それで、遅刻してきたのは貴方ってわけ」
ユークの冷たい声が響く。

　人声が振動となってぴりぴりと身体に響く。うるさい、うるさい、うるさーい！　と声に出して叫びたい。

「なるほど……ユークの故障を治すために、お二人は、ここで情報収集をしていたわけですね」

からだ、とユークは思った。
わたしのからだ。

「ネムルちゃーん！　ユークちゃーん！」
さりゅの呼び声は、虚しく寄せては返す波の音に吸い込まれた。

長い前髪をいじりながら、南雲は電源の切れたパソコンの画面を見つめていた。

ちょっと待ってろ、とネムルに言いおいて、渚はアクアバギーに飛び乗った。片膝にユークを乗せるとエンジンをかける。

「曼荼羅ガレージ」の玄関扉を開けてすぐ、うわっ、とネムルは悲鳴をあげた。

ネムルがリリーと攻防戦を交える最中、さりゅは海斗からユークの身体の状態を聞いた。

「タイミング、悪すぎだろ……オレ」
　なすすべもなくさりゅの背中を見送りながら、陸太はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。