BARを出る頃には午前零時を回っていた。冷房のきいた店内から一歩外へ踏み出すと、くらくらするような蒸し暑さに当てられる。台風が過ぎ去った後だからか、ここ数日熱帯夜が続いているのだ。本格的な夏に入ろうとしている気配を肌で感じる。
銀座ほどの賑わいではないが、BARの前の通りはそれなりに人で賑わっていた。遠くの方に見えるネオンライトがカラフルな光の玉となって目に映る。
「それで、情報掴めたのか?」
BARを出てすぐに真一が聞いてきた。両手を頭の後ろで組んで、眠そうに目を細めている。
「いや……皆無だ」
フィアスはため息をついた。銀座の似非ヤクザたちが去る瞬間に〈ドラゴン〉のことや〈サイコ・ブレイン〉、〈ドラゴン・ヘッド〉のことをそれとなく聞いてみたのだが、どれも返事は一緒だった。また情報が掴めないまま、今日が終わった。
「そうか。――ヤクザとタイマン張る時、ちゃんとヤクザ言葉で言えたか?」
居心地が悪くなったのか、真一が不自然に話題を変える。
「ヤクザの第一歩はまず啖呵からだからな。出始めで、そいつの器が分かるって言っても過言じゃない……ん? どうかした? 顔が暗いぞ」
「……」
フィアスは眉間に皺を寄せて、二、三回首を左右に振る。目はかたく閉じたまま、頭痛を訴えるような表情だ。
「……ヤクザという人種は好かない」