七つの国の軍隊

二人の兄弟が相談している。どの軍隊に入隊すべきかを。

彼らの選択肢は七つある。七つの国が戦っている。動乱の世。どこもかしこも火の海だ。彼らは穏やかな森で育った。戦いとは無縁の場所で。魔女の母親と剣豪の父親に育てられた。兄弟の一人は女で、もう一人は男だった。

姉は母親から魔術を習い、弟は父親から剣術を習った。姉弟は才能豊かで、各々の武器を大人顔負けに使いこなした。彼らは物足りなくなってきた。

母と父は話し合い、子供を武者修行の旅に出すことにした。森の出口に佇む両親は、切なげに二人を見送った。姉弟は希望に満ち溢れていた。

はじまりに立ち、姉は言った。どの軍隊に入ろうかしら?

同じく隣で、弟は言った。いちばん強い軍隊がいいや。

弱い軍隊を強くするのも面白いわよ、と姉が言った。二人の手に掛かれば、弱小国が強豪国になるわ。

ならば力比べをしよう、と弟が提案した。別々の軍隊に入隊して、二つの国を競わせよう。

一緒に戦うべきよ、と姉は抗議したが、競争好きの弟に言い負かされた。姉さん、これはゲームだよ。戦争という名のゲームだよ。次第に姉も乗り気になった。遠い夏の日に二人で遊んだチェス盤が思い出された。そのチェス盤は黒と白ではなく、赤と白に色分けされていた。

姉は赤い国の軍隊に入隊し、弟は白い国の軍隊に入隊した。各国で二人は腕を振るい、近隣諸国を次々と制圧した。

数年が経ち、姉弟はそれぞれの国で大人になった。姉には恋人ができ、弟にも恋人ができた。

天下無双てんかむそうの魔女、鎧袖一触がいしゅういっしょくの剣豪と謳われた彼らの恋人は、それぞれの国に暮らす一般市民だった。

姉弟は腕を磨き、度重なる戦いに勝ち星を飾った。敗退した戦いはなかった。魔女の恋人も剣豪の恋人も争いのない平和な関係を望んだ。果てしない話し合いは、終わりなき戦いに変わった。

その間も、姉と弟は戦に出陣し、戦争に勝利し続けた。

魔女と剣豪の働きで、五つの国は属国化した。二つの国は領土を拡大した。二大国の戦火は勢いを増した。何百万もの兵隊が命を落とした。

姉は赤い国の男と結婚した。弟も白い国の女と結婚した。内も外も絶え間なく争いが続いた。姉と弟は大きな勝利を望んだ。彼らの配偶者は小さな安寧を望んだ。家庭の溝は深まるばかり、戦いに暮れる姉弟に説得の余地はなかった。

魔女は夫に魔法をかけて操り、剣豪は妻に剣を振って言うことを聞かせた。こうして内紛が治まっても、二強国の戦火は鎮まらなかった。なぜならば赤い国には最強の魔女がおり、白い国には最強の剣豪がいたからだ。姉と弟は一歩も引かなかった。彼らはとても強かった。しかし、彼らは負けてしまった。

ぶつかり合う杖と剣は、ある日を境にぽきりと折れた。

赤い国と白い国は待ちわびたように講和を結んだ。長い戦争が終わりを告げた。疲れ果てた配偶者たちは姉弟の元を去った。

姉も弟も疲れ果てていた。嵐が去ったあとの安らかな悲しみが訪れた。

魔女の元には男の子供が、剣豪の元には女の子供が一人ずつ残された。姉弟は悟った。

両親が、我々を戦へと送り出した理由を。度重なる戦いで、何を学ぶべきだったかを。

故郷の森へ向かう途中、魔女は母親のことを考えた。母親と信じて疑わなかった女性のことを。

同じように剣豪も父親のことを考えた。父親と名乗ったかつての師匠のことを。

魔女の息子と剣豪の娘は森の入り口で対面する。彼らは物心もつかないうちから姉弟として育てられる。そして、かつての姉弟は互いの子供に戦いの術を教える。女の子に魔術を、男の子に剣術を。子供たちは気休めに赤と白のチェス盤で遊ぶ。

姉弟が去った大国は、内紛を起こして七つに再び分裂する。七つの国の軍隊が結成され、熾烈な戦禍が巻き起こる。馴染み深く、新しい戦禍が。

動乱の世。子供たちの才能は豊かだ。大人顔負けに魔術と剣術を使いこなす。彼らの才能を輝かせるには、この森は小さすぎる。

女と男は話し合い、子供たちを武者修行の旅に出す。次こそ本物の強さを獲得するために。それぞれの願いを我が子に託す。

二人を送り出す、母親と父親の顔は切なげだ。

反対に、子供たちは希望に満ち溢れている。

 

二人の兄弟は相談する。どの軍隊に入隊すべきかを。

2023.05.18