「珍しいな。お前から呼び出しがあるなんて」 渚は辺りを伺う。
一日の授業も終わり、教科書を鞄にしまいながら、気になっていることを聞いてみた。
「サユリ、準備は良いデスカ?」
ミルクティー入りのカップを置くと、ちょうど口をつけた部分にピンク色のルージュがついた。
力いっぱい背中を押される。前のめりに倒れ込み、膝を擦りむく。ひりつく熱、冷たい痛み。掌に食い込んだ砂利を払うと、血が滲んでいた。
「ネムルちゃーん! ユークちゃーん!」 さりゅの呼び声は、虚しく寄せては返す波の音に吸い込まれた。
「曼荼羅ガレージ」の玄関扉を開けてすぐ、うわっ、とネムルは悲鳴をあげた。
内部を伺う絶好のチャンスだった。「曼荼羅ガレージ」を追い出されたリリーは、海岸とは反対方向へ歩き出した。
乾いたばかりのマニキュアにふっと息を吹きかける。迷彩柄の五本の爪が朝日を受けてきらりと光る。
豊かな金髪が風に揺らぐ。小君良い音を鳴らしながら、レンガ敷きの道を軍靴が叩く。
私もまだまだ甘ちゃんね。 銃口から立ち昇る硝煙を吹き消し、ホルスターにしまう。
空港にもパパラッチがいるなんて!なんとか追っ手を撒いたリリーは、物陰に隠れて深呼吸する。