キスしてて。そしたら吸わずにいられるかも

キスしてて。そしたら吸わずにいられるかも

そんなことを言われてみたい。一度でいい。最初で最後でいい。
熱のこもった声で言われたら、全て許してしまいそう。
一生、ヘビースモーカーと付き合っていけそうだわ。

しかし、そんな夢のような出来事は起こりえない。99%ありえない。いや、99%という言い方ですら物足りない。
1000%ありえないのである。
セダンの車内灰皿には、例のごとく吸殻がびっしり。それをゴム手袋をはめた手で鷲づかみにして、別のビニール袋へ放る。灰の臭いに息がつまる。
「なによ、こんなの。中毒になるほうがおかしい」
そして、人の車を掃除しているあたしもおかしい!
澤田秋は吸殻の溜まったビニール袋をぶら下げ、秋の部屋をも煙でいっぱいにしようとしているヘビースモーカーの下へと向かった。


霧に包まれた自家用車兼捜査車両は、こうして1週間に一度、きれいに整備されているのである。