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 早朝の成田空港はたくさんの人であふれ返っている。出張に向かうビジネスマンは皆揃って冴えない灰色のスーツに、実用的なキャリーケースを引いている。日本が今、大型休暇中だからだろうか、ビジネスマンの他に南国の衣装を身にまとった、心の先走った旅行者の姿も目に入る。日本国外の人間も多いようだ。金髪・黒髪・白い皮膚・黒い皮膚、様々な人種の人間が様々な目的を持って、コンコースをすれ違う。
 国際化という言葉を具現した光景だが、どこの国の空港も同じようなもんだな、と男は思う。世界共通で、その土地の風土から切り離されている。それが空港。国籍なんて持って持たないような立場の自分が、空港という場所に親近感を覚えるのは、そのためか? なーんて、辛気臭いアジアの土地に触れて、オレは少し感傷的になっちまっているのか? 男は笑う。
 男の荷物は少ない。イタリアからの長旅だというのに、銀のアタッシェケースが一つ。それも中身は生活用品の類ではない。あの肩書・・・・のおかげで税関すら通す必要のない、銃器類。
 便利になったもんだ、と男は思う。あの組織に入る以前は武器を密輸するにも一苦労だったのに、な。
 「BLOOD THIRSTY 03」、それが男の唯一の身分を示す名前。国籍よりも有力な、誇るべき証。
 空港を出ると、男は身に付けていたサングラスを外した。肉眼で日本という土地を見たかったのだ。ダークブラウンのレンズに覆われていた瞳が鮮やかな緑に変わる。男は元来から攻撃的に吊り上がった瞳を細めると、ニヤリと笑った。
サルヴァトーレ救世主のお出ましだぜ」